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ブルートレインの楽しみ イメージ 寝台列車、そして鉄道の素晴らしさ
元・フジテレビアナウンサー、
堺正幸さんに訊く
聞き手・池口英司

鉄道旅行には、クルマや飛行機利用にはない夢がある。長い旅路をゆっくりと楽しみながら車窓の風景を眺め、これから向かう場所に思いを馳せる。そんな楽しい夢がある。昔、まだどこに行くにも鉄道が利用された時代。全国には数多くの長距離列車、寝台列車が運転されていて、鉄道の旅ならではの楽しみを存分に味わうことができた。現代は、クルマと飛行機の時代。寝台列車は数えるほどに減ってしまった。けれどもその楽しみは、昔と何も変わっていない。そんな鉄道旅行の楽しさを、鉄道通として知られる元・フジテレビアナウンサーの堺正幸さんに、札幌に向かう寝台特急「北斗星」の車内で語っていただいた。

▲上野駅で発車時刻を待つ北斗星。
車内での食事は、鉄道旅行だけの楽しみ

上野と札幌を結ぶ豪華寝台特急「北斗星」が運転を開始したのは、青函トンネルが開業した1988(昭和63)年3月13日のこと。さまざまな客室設備を備え、食堂車ではフランス料理のフルコースが提供されるこの列車は、運転開始と同時に一躍人気列車となり、指定券の入手が難しい状況が長く続いた。当時、北海道への旅は、飛行機の利用が一般的になっていたが、それまでの寝台列車のイメージを一新した「北斗星」は、鉄道旅行の楽しさを広く再認識させたのである。あれから四半世紀が経過し、日本の鉄道の姿も大きく変わった。そして、2016(平成28)年春に予定される北海道新幹線の開業に先立つ形で、「北斗星」の定期運行の終了がアナウンスされた。
▲北斗星A個室(ロイヤル)でくつろぐ堺正幸氏

―私たちはいま、寝台列車「北斗星」に乗車しています。時間は23時を過ぎたところで、上野を出たのが19時過ぎのことでしたから、もう4時間、列車に揺られ続けているわけですが、寝台列車に乗っていると時間がすぐに経ってしまうような気がします。仕事で利用する新幹線よりも早い。つまりそれだけ、列車に乗っていること自身が楽しいのでしょうね。ところで、この列車は2015年3月ダイヤ改正時に定期運用から外れる、それから後は、臨時列車として不定期に運転されるのみとなることが発表されています。このようなニュースを聞くと、私たちファンは、とても淋しい気持ちにさせられます。

堺: 東京から九州に向かう寝台列車がなくなり、上野から東北に向かう寝台列車がなくなり、関西に発着する寝台列車もなくなった。そして、今度は北海道連絡の寝台列車が消えるという。私たちにファンを与え続けてくれた「ブルートレイン」にも、いよいよ終わりが近づいているという感があります。自分の人生と掛け合わせるわけでもありませんが、なんだか「定年」が来てしまったような、一つの時代が終わるのだなというような、いまは、そんな気持ちですね。
いまの若い人は、鉄道に乗るといえば、それは電車に乗ることで、機関車が引いて走る客車列車に乗ることができる機会というのは、本当に限られているのではないかなと思います。電車には電車の良さがあるけれども、客車列車、あるいは夜を徹して走る寝台列車にも、鉄道旅行の素晴らしさが秘められている。若い人が、それを知る機会が失われてしまうことも、少し淋しく感じますね。

▲フランス料理のコース(写真提供:日本レ ストランエンタプライズ)
▲懐石御膳(写真提供:日本レストランエン タプライズ)

―新幹線に乗れば、あっという間に目的地に着くことができる。けれども、時間は余計にかかっても良いから、旅の過程を楽しむ。寝台列車には、そのような魅力が備わっているのだと思います。けれども、寝台列車が廃止されてしまったら、選択肢がなくなってしまうということになりますね。

運転されている車両にしても、ひとたび新型電車が生まれると、どこに行ってもその形が走っているような時代になりました。もう少し車両も個性豊かであれば、乗る人も鉄道旅行を楽しめるのではないでしょうか。そして、鉄道旅行の楽しさを楽しむというのであれば、その最たるものが寝台列車であり、この「北斗星」なのだと思います。「北斗星」には食堂車が連結されています。列車の中でフランス料理のコースや、懐石御膳などの豪華な食事を楽しむことできる。これは素晴らしいことだと思いますね。

別格の存在だった昔の特急列車

そうしているうちに「北斗星」は仙台駅に到着。発車は23時30分で、次の停車駅は、函館となる。そこはもう北海道である。深夜の仙台駅ホームに人影はなく、列車は静かに仙台駅を後にし、徐々にスピードを上げてゆく。市街地を抜けると、街の灯は、もうまばらだ。遠い昔の「夜汽車」を思わせる、長い旅が続く。


―昔は長距離を走る特急、あるいは急行には必ず食堂車が連結されていました。それは鉄道旅行に大きな楽しみを加える存在だったと思います。鉄道好きで有名だった作家の内田百閧ヘ、『僕は列車の中で食べるものは、何でも美味しい』と仰っていました。

百關謳カといえば、私も最近になって『阿呆列車』のシリーズを読み直したのですが、あの時代の人たちは、特急の最後尾に連結されていた展望車に乗っているのですね。時代が違うから、今はもうかなわぬ夢なのだけれど、あの展望車には、一度乗ってみたかったですね。

―あまりお金はないのだけれど、鉄道に乗る時は一等車に乗る。痩せ我慢をしてね(笑)。

展望車には、私も一度乗ってみたかったなあ。昔の記録映画を見ると、幾つかの作品には展望車を連結した特急が登場するのです。それが格好良い。あのデッキに立って、そこからはどんな眺めが見えたのだろう。

―特急列車は憧れの的でした。

私が小学校5年生、6年生の時、個人的に毎週末に東京に出かける用事があったのですが、それは午前中で終わる。それから東京駅に行くわけです。するとお昼前に、「みずほ」などの寝台特急が東京駅に帰って来るのを見ることができる。この時は20系客車です。ホームで列車を見ていると、ドアが開いてお客さんが下りてくる時に、夏であれば、車内から冷たい風がサーッと吹いてくる。この頃は冷房が付いていたのは、「ブルートレイン」だけだったのです。子供心に、「ああ。これが特急列車なんだ」と思いました。

―いまとは違って、特急というのは、ごく限られた存在でした。私も子供の頃に、キハ82系の「南紀」を駅で見て、なんとなくですが「自分は一生この列車には乗れない」と感じたのです。それは昭和40年代の初めの頃のことですが、当時の特急というものは、それくらい、豪華でまばゆい存在でした。

特急に乗務している専務車掌さんは真っ白いユニフォームで、これも格好良かったですね。

この後も、思い出話はずっと続いた。全国にさまざまな路線があって、さまざまな列車が運転されていた昭和という時代。それはまぎれもなく、鉄道の黄金時代であったのだろう。旅先で見かけた列車の姿や、駅で働く人たちの凛々しい姿の思い出は、昭和を生きた人たちの誰にとっても、かけがえのない宝物となっているに違いない。
ゆっくりとした旅で、鉄道の魅力を楽しみたい

夜が明けると、列車はもう北海道を走っている。「北斗星」の函館着は6時35分。春もまだ浅いこの時期は、太陽はまだ上がってはいない。ようやく少し明るくなり始めた駅の構内で、「北斗星」の機関車交換の作業が始まる。函館から札幌までの道のりで、列車は非電化区間を走る。ここからは電気機関車に代わって、ディーゼル機関車が列車の先頭に立つのである。雪の積もる中で、機関車交換の作業が続く。その姿を眺め、車内に戻ると、また昨晩の話の続きが始まる。
▲函館到着直前の車窓
▲函館駅機関車交換(道内用のディーゼル機関車に)

―先ほどの機関車交換の作業がそうであったように、鉄道マンの動きというものは、いつも無駄がなく、見ていて頼もしいですし、格好良い。あのような姿をみていると、鉄道が好きであることを誇らしく思えます。ところで、昔の列車には、今の列車にはない気品のようなものが感じられるのですが、それが何故なのか、いつも不思議に思うのです。

昔の鉄道マンには誇りがあったのでしょうね。それはもちろん、今の鉄道マンにだってある。あるいは食堂車で働いている人にだってある。だからいまでも、日本の鉄道は正確無比に運転されている。それでも、昔の鉄道マンには、今は失われかけている何かが備わっているようにも感じますね。

―昭和時代に乗った鉄道で、思い出深い列車はありますか?

やはり夜行列車の旅は魅力的でしたね。急行「八甲田」で北海道に行った時は、上野を夜に出て、青森に着くのは朝の6時過ぎ。青函連絡船に乗り換えて、そこから3時間50分かけてようやく函館に着く。でも、そこはまだ函館であって、札幌まで行くには、そこからまた列車に乗って半日…。

―遠い、遠い(笑)。つまり、北海道というのは、それくらい遠い所であったわけですよね。いまは、飛行機を使えば、日本中どこでも日帰りができる。いまも、私たちは列車で札幌に向かっていて、先ほど函館を出ましたが、札幌まではあと5時間。でも、この距離感を味わえるのが、鉄道の旅です。

どこにでもすぐに着けるようになった。それは時代の進歩なのであって、だからいまは、昔に比べればはるかに便利になったわけです。たくさん仕事ができるようになったわけです。けれども、仕事を離れ、プライベートに旅をするのなら、もう少しゆっくりと行きたいですね。今日のようにね。長距離を走る列車に乗って、地方のローカル線を走るディーゼルカーに乗って…。そうやって、鉄道の魅力を、じっくり楽しみたい。

▲朝食は予約なしで食べられる。洋食のスクランブルエッグは人気。

―そのローカル線までの道のりは、
できれば展望車に乗って(笑)。

そう。食堂車も必ず連結してもらって(笑)。

寝台特急「北斗星」は、北海道に渡ってからは、函館、森、八雲、長万部、洞爺…と小まめに駅に停車しながら札幌を目指す。窓の外には雪景色が続く。駒ヶ岳や大沼公園の雄大な風景を眺め、波静かな噴火湾に沿って走り、苫小牧を過ぎると次の停車駅は南千歳。そして窓の外に豊平川が現れると、列車は徐々に速度を落としてゆく。16時間の旅の終着駅、札幌が近い。
▲外はすっかり雪景色。札幌到着直前車窓 ▲朝日が差し込む社内。そろそろ旅も終了に近づいている。 ▲札幌駅に到着。冷たい朝の空気に身も心も引き締まる。
(1月20日。上野発札幌行「北斗星」車内。CSテレビ番組『みんなの鉄道』収録の途上にて)
堺正幸さんプロフィール

1952(昭和27)年神奈川県生まれ。フジテレビのアナウンサーとして、報道番組「FNNスピーク」、競馬中継、ゴルフ中継などで活躍。子供の頃から大の鉄道好きであったことから、鉄道関連のバラエティ番組にも出演。現在はCSの鉄道番組「新・みんなの鉄道」で、ナレーター、レポーターを務め、東北新幹線、上越新幹線、北陸新幹線、在来線特急の車内放送でも、その声を聞くことができる。いまも忙しい仕事の合間を縫って、全国のローカル線の乗り歩きを続けるなど、鉄道に寄せる思いはいささかも翳っていない。

池口英司さんプロフィール

1956(昭和31)年東京都生まれ。鉄道や旅行をテーマとして活躍を続けるフリーライター・フォトグラファー。幼稚園時代の家が線路の近くにあったこともあって鉄道に興味を持つようになり、蒸気機関車の撮影に熱を上げたことが昂じて、出版の仕事に携わるようになった。著書に「鉄道時計ものがたり」「鉄道を良く知る基礎知識」などのほか、月刊誌の連載も多数。アメリカ・大陸横断鉄道、スイス・氷河急行などの素晴らしい乗り心地に感激。長距離列車に乗ることが無上の楽しみとなった。

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